「モールドパック」が卵パックの主役になる

卵は日本人の国民的食材
日本人が一人あたり年間300個以上を食べる国民的な食材、「卵」。良質なアミノ酸をはじめビタミンやミネラルが豊富な卵は、栄養の優等生と言われています。
卵はまた、長年物価の優等生でもありました。一般社団法人日本養鶏協会の「鶏卵価格の年次別月別推移」によると、1989年から2022年までの間、卵の価格は1kgあたり150~250円の範囲で推移してきましたが、これは30年前とほとんど変わらない水準です。2023年の鳥インフルエンザの感染拡大以降、飼料代や光熱費の高騰などで価格は300円前後まで上昇しましたが、それでも卵は日本人の食生活に欠かせません。
スーパーマーケットには必ず卵売り場があり、毎日多くの消費者が買い物かごに卵パックを入れる姿が見られます。
多くのCO2を発生させてしまうプラスチック製
卵パックにはプラスチック製と紙製の2種類があります。透明なプラスチックの素材は塩化ビニールからPETへ、2000年にはA-PETへと移り変わってきました。A-PETは透明度が高く割れにくい反面、化石原料由来のプラスチックであるため、作る時にも廃棄する時にも多くのCO2が発生させてしまいます。そのため化学業界や容器・包装業界では、植物由来のバイオマス原料を使う試みや、CO2からプラスチックを作れないかという発想で、新しい技術開発が進められています。
紙製の「モールドパック」は丈夫で環境にやさしい古紙由来
こうした中で注目されているのが紙製の卵パックです。紙製の卵パックは「モールドパック」と言われ、「パルプモールド」と呼ぶこともあります。リサイクルによって生まれる製品で、主に新聞・雑誌・段ボールなどの古紙を、水と混ぜて成形・乾燥させて作ります。卵パック以外にも青果物、電子製品の緩衝材・梱包材として使われています。モールドパックの魅力は丈夫であること。割れやすくデリケートな卵をしっかり保護します。また通気性と吸湿性に優れているので、鮮度保持効果が高いのも特徴です。
環境にやさしい古紙由来であることも大きな魅力。家庭で使用されたモールドパックは、地域により「可燃ごみ」または「リサイクルができる資源」として回収。再びモールドパックの原料として利用されます。資源として再利用されなかったモールドパックは、長い年月をかけて地球の大地にかえります。(プラスチック製卵パックは資源ごみとして回収され、プラスチック原料やコークス炉化学原料などとして再利用されます。)

脱プラとプラスチック資源の循環促進が進む日本
日本では2019年、環境省が「プラスチック資源循環戦略」を掲げ、3R(リデュース、リユース、リサイクル)に加え、再生可能資源への代替(リニューアブル)を推進し、脱炭素化を目指しています。2020年7月にはプラスチック製レジ袋の有料化が全国で義務化され、2022年4月からは「プラスチック資源循環促進法」が施行。2023年度からは「脱炭素型循環経済システム構築促進事業」がスタートし、民間事業者・団体、大学、研究機関等を対象に、2027年度までの5年間で脱炭素化に資する資源を徹底活用する技術の社会実装に向けた実証事業を行っています。
日本の卵パックの主役が紙製になる日は近いか
グラフはアメリカの調査会社グローバル・マーケット・インサイツ株式会社による世界の卵パック市場の推移を示したものです。2024年の世界の卵パック市場は7.75億USドルとされ、2025年から2034年まで6.3%のCAGR(年平均成長率)で成長すると推定されています。世界ではすでに紙製がプラスチック製を上回っており、紙製は7.8%以上のCAGRで成長。2034年には8.7億USドル以上に達すると予想されています。環境に優しく持続可能な特性を持つ紙製の卵パックが、日本でも主流になる日は遠くないかもしれません。
