注目の新素材「CNF」は植物由来

植物の主成分セルロースから生まれるCNF
今、様々な製造業の間で注目を集めている新素材があります。「CNF」です。CNFは「Cellulose Nano Fiber」の略で、植物の主成分であるセルロースを、ナノメートル(1ミリの100万分の1)単位まで細く割いた繊維状の物質のことです。
植物由来の製品と聞いて、紙を思い浮かべる人も多いでしょう。紙は記録媒体として文明の発展に大きく貢献してきました。ただ紙には脆い、熱に弱いなどの欠点があることから、残念なことに人類は災害や戦争があるたびに貴重な文化遺産を失ってきました。
強度は鉄の5倍、熱にも強く変形しにくい
しかしCNFは、植物由来の製品に対するイメージを根底から変えてしまいました。まず、強度です。CNFは鉄(すでに鉄と比較することに驚かれる人もいるはず)と比べて5倍の強度があります。それでいて重量は当然ながら軽く、重さは同じ量の鉄の5分の1です。強い力で引っ張っても変形しにくく、融点は260~270℃と熱に強い特性があります。
わらや野菜屑からもつくれ、環境リサイクルにも貢献
セルロースは、植物の細胞壁や植物繊維の主成分です。植物の重量の約3分の1を占め、植物の硬さやしなやかさを保っています。動物を支えているのは骨ですが、植物はその役割をセルロースが担っているのです。
CNFは主に木材からつくられますが、セルロースを含んでいれば、基本的にどんな植物からもつくることができます。稲わらや麦わら、もみ殻などのほか、野菜屑、茶殻、ミカンの皮や紙・古紙なども材料になります。その他、海藻やホヤの外皮に含まれるセルロースからもつくれます。竹やコーヒーのカス、ホップの蔓、ブドウの茎などの利用も研究され、環境リサイクルの一環として多くの農作物や水産物に新しい可能性が生まれようとしています。

食品、医療、自動車、建設など用途の可能性は多種多様
あらゆる植物から製造可能なCNFは、その用途の可能性も多岐にわたります。
化学的処理によって液体状またはゲル状になったCNFは、食品用の増粘剤、医薬品・創傷医被覆材、フィルター・セパレーターなどの分離材料として、すでに多くの製品で取り入れられています。
ゴムや樹脂など他の素材と混合させ複合材料としての用途にも注目が集まっています。自動車の内外装や自動車部品、建材や内装材、家電の筐体(きょうたい)……。まさに多種多様です。

大王製紙も積極的に取り組む
大王製紙でもCNFの開発に取り組んでいます。2022年3月からCNF複合樹脂の製造技術確立を目的に、三島工場にパイロットプラントを設置して稼働を開始。原料である木材チップからCNF生成までの一貫製造を実現しています。
CNFのサンプル提供(スラリー品)も開始し、今後の実用展開に向けた用途展開を図っています。TKKは提供・販売の窓口になっています。
新たな用途開発では産業技術総合研究所と共同で開発しています。開発テーマは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO )の「NEDO 先導研究プログラム/新技術先導研究プログラム」に採択されています。

植物由来の自動車の登場も夢ではない
東西冷戦時代の旧東ドイツには、「トラバント」という名車がありましたが、ボディに光沢がないことなどから「紙でできている」などと揶揄する人も少なくありませんでした(実際には繊維強化プラスチック製)。 しかしCNFの用途開発が進めば、植物由来の自動車の登場は、決して夢ではありません。強くて軽くて地球にも優しい自動車が道路を走る姿を目にする日も、そう遠くないかもしれません。
CNFは木材由来のナノ繊維で、軽量・高強度など環境負荷が少なく、自動車や建材などで活用され、用途拡大が期待されています。
CNFについてはこちら